インドを旅する駐在員

1978年 生まれのサラリーマン。2015年からインド ムンバイに在住。国内外問わず とにかく ビール と 旅 が大好き。  最近、白髪が増えてきた…

インドで一人旅『列車で行くしかないでしょ 』 EP.16

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  • 光と影

アンベール城を出るため、4460は、順路に沿って出口の案内の方向へと進んでいた。

 

この城の正面は、北を向いている。

先ほどまで、東からの朝日を浴びた明るいところにいたが、

出口に向かうための順路となる西側は 影になる。

 

きらきらしていたマハラジャの居住地と比べると何だか寂しい

ただでさえ堅牢で武骨なつくりであるのに加えて、兵士が働くエリアは、

採光や風通りを考えた窓も設置されていない。

 

あるのは、銃口を外に向けるための小さな穴だけだ。

 

早朝のアンベール城は、観光客も少なく快適に見て回ることができた。

だが、今、出口に向かう道には、4460以外、誰もいない。

高い塀に囲まれた西側を歩きながら、自分だけが城に取り残された…

そんな気持ちになる。

 

見上げると、先ほどまでと同じ青空が見える。

西側には、山の斜面と稜線にしっかりと朝の陽の光を浴びて

輪郭を強調したジャイガル要塞の城壁が見える。

 

早く、光の当たる場所に行こう。

 

  • 出たな… カメラマン

出口へとつながる順路を進んでいくと、建物の下を通る

トンネルのような場所が見えてきた。

 

薄暗いトンネルは、見たところ20mはあるだろうか…。

その先に、明るい出口が見えている。

そうか、西側をぐるっと回って、ライオン門前広場に出れるようだ。

出口までもう少しだ。

 

薄暗いトンネルに入っても、今回は影を歩いてきたので視界を奪われない

10mほど先に人影が見える。

壁にもたれていた人影は、こちらを確認すると背中を起こして

ゆっくりと近づいてきた

 

よく見ると象に乗っていたときEP.13に写真を撮ってきた カメラマンだ。

 

無視して通り過ぎようとすると、

半笑いで小さなアルバムを出して『フォト、4000ルピー

 

えっ。もう写真出来上がってるの?

しかもアルバム…。

4000ルピー、高すぎるやろ…

 

そうか、観光客は順路に沿って進むから、

ここで待ち構えていれば必ず戻ってくるというわけだ。

 

少し動揺したが、4000ルピーは無いで

無視して歩き続けるとトンネルの中をカメラマンも食い下がってついてくる。

『この写真とアルバムは、あなたのためだけに準備したんだ』

 

そらそうやろう…

 

40を過ぎたおっさんが象に乗っている写真を自分のためにアルバムにしてたら、

悪趣味もいいところや。

 

カメラマンを引き連れたままトンネルを抜ける。

明るい

ライオン門前広場に出た。

 

  • 4460 vs カメラマン

4460は、アンベール城に写真を4000ルピーで買うか買わないかの交渉をしに来たわけではない。穏便にあっちに行ってほしい。

それが正直な気持ちだ

しかし、この気持ち、カメラマンには伝わらない

 

『お前が写真を買わないと捨てることになる

 この写真は俺には価値がないんだから』

…よかった…

価値があったら逆に怖い…

 

こちらも言い返す。

 

勝手に写真を撮って現像してるだけだろ。

俺はオーダーしていない

 

カメラマン『お前がこの写真を買わないなら、費用をどうしてくれるんだ‼

 

どうしてくれるんだ…

それを言ってしまったらセールストークではなくて、脅しやんね…

 

そう思った直後、広場でのやり取りを見ていたインド人10人ほどが、

4460を助けに入ってきてくれた。

 

『お前は言い過ぎだ。しつこいから 日本人が困ってるじゃないか』

おおっ、インド人優しい…

 

カメラマン『オレの仕事を邪魔するな。日本人なんだから4000ルピーで買うべきだ』

悪質やん…

 

ふっと、形勢を逆転するアイデアが浮かんだ。

 

4460は、チェキをカバンから取り出しカメラマンに向けて撮影

 

何が起きているのか理解できず黙っているカメラマンと応援してくれるインド人。

本体から排出されたフィルムを黙って軽くパタパタと振りながら待っていると、

ゆっくりとカメラマンがフィルムに染み出てきた

 

4460は、それをカメラマンに差し出して一言『写真、4000ルピー

 

お互い、勝手に写真を撮りあったんだから、同じやろ

 

  • カメラマンとの示談成立

応援団インド人から にわかに起きる歓声と拍手。

4460も、写真を突き出し、さらに一歩前に進んで『さあ、写真4000ルピー』。

 

カメラマン『……。』何も言えなくなる。

 

勝った…

 

応援団の1人が、『これは、お互い交換だな』と示談案を提示してくれた。

あんなにしつこかったカメラマンが応じるだろうか。

 

ふっと彼を見ると観念してアルバムを差し出している。

4460もチェキ写真を差しだす。

 

示談の成立だ

 

嗚呼。チェキスクエア― そして、富士フィルム ありがとう。

株でも買おうかな…。

 

握手の代わりに軽いグータッチをして、カメラマンと別れる。

応援インド人も解散だ

 

何だか疲れた…

 

ふと気付くと、また新たに 象に乗って外国人がやってくる

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カメラマンには、気を付けろ…

静かにつぶやいて、アンベール城を離れることにした。

 

…そっとアルバムを開けてみる。結構いい写真やん

やるな、カメラマン…。

 

次回は、 ジャイガル要塞 へと続く登山道へ。

今日はここまで。